物性研短期研究会「新たな物性研究体制の構築」

物性研短期研究会 「新たな物性研究体制の構築」

東大物性研
2006年12月7-8日

  1. 共同研究所について
    • 物性研の現状と将来像 [講演] [報告書]: 上田 和夫(物性研所長)
    • 基礎物理学研究所の現状と問題点 [報告書]: 早川 尚男(京大基研)
    • 物性研共同利用(移転と法人化後) [講演] [報告書]: 柿崎 明人(物性研)
    • 大型設備の共同利用(中性子実験)[講演] [報告書]: 廣田 和馬(物性研)
    • SPring-8 [講演] [報告書]: 菅 滋正(阪大基礎工)
    • 外側からの意見・要望 [報告書]: 高畠 敏郎(広大)
    • 外側からの意見・要望 [講演] [報告書]: 後藤 輝孝(新潟大)
  2. 物性研究のための資金、その他
    • COEその他の大型資金時代と物性研究資金 [講演] [報告書]: 家 泰弘(物性研)
    • 小規模研究室における研究と多様性の確保 [講演] [報告書]: 矢ケ崎 克馬(琉球大)
    • PD問題の現状:アンケート結果の報告 [講演] [報告書]: 平島 大(名大)
  3. 新生学術会議
    • 機能と役割、物性コミュニティに望むこと [講演] [報告書]: 十倉 好紀(東大)
    • 学術会議と物性コミュニティ双方から [報告書]: 秋光  純(青学大)
  4. 物性コミュニティとしての物性委員会の役割
    • 春、秋物理学会-物性領域発表に関する改革 [講演] [報告書]: 鹿児島 誠一(東大)
    • JPSJについて  [講演] [報告書]: 斯波 弘行(JPSJ編集委員長
  5. 大洗施設と超ウラン化合物研究

提案代表者による研究会報告 [報告書]: 佐藤 正俊(名大)

JPSJの発展に向けて

日本の数少ない英文の学術誌であるJ. Phys. Soc. Jpn.(JPSJ)が伸び悩んでいる。“多額の国内資金(税金)を使って得た研究成果を海外誌に投稿し、外国にサービスする”という望ましくない事態をさけるために、国内学術誌の発展を図ることの重要性が指摘され、その改革が進んでいるが、その努力をさらにすすめてJPSJを支えることがわが国の研究者の責務と考える。物理学の分野における日本の実力は、海外からの目を引き寄せるに十分なものになっており、キーとなる論文をJPSJに出版すれば、JPSJの評価は上がるはずである。海外誌偏重から脱却した公正な評価の土壌を整備しつつ、貴重な学術誌であるJPSJを維持・発展させたい。広い分野の人々が優れた論文をJPSJへ発表することを切望する。
日本の科学技術基本計画による研究開発投資は1996年から2000年の第一期に17兆円に達し、2001年からの第二期5年では24兆円が見込まれる大きなものになっています。身近な科学研究費補助金だけをみても、平成5年度との比較で平成16年度には約2.5倍にあたる1,830億円に伸びました。これらによって、我々の研究環境はひところのように“世界に比して恵まれない環境下での研究を強いられている”とはいえない状況になっています。このことが、実際の研究現場に如実に現れ、例えば、日本人物理学者による学術論文の数は大きく増加しました。また、物性物理分野を例にとれば、日本で発見された新物質や、我が国の研究者によって意義が見出された物質・試料が世界を駆け巡っている状況にあります。

また、物性物理以外の分野においても、ニュートリノ物理学におけるカミオカンデおよびスーパーカミオカンデの成果、SPring-8におけるペンタクォークの発見、理化学研究所における新元素の発見など世界をリードする成果が次々に生み出されており、加えてJ-PARCの建設等は、今後の日本の科学のさらなる発展を約束しています。

こうした現状は大変喜ばしいことであり、今後、優れた研究が日本から多く生まれるよう一層の努力を重ねなければならないと我々も決意を新たにするところです。

しかし、単に喜んでばかりはいられません。日本の英文の学術誌としてその地位を保ってきたJPSJ(Journal of the Physical Society of Japan)が非常に憂慮される情況にあるからです。日本物理学会誌59巻9号に掲載された特集記事でも明らかにされているように、米国の学術誌であるPhysical Review B(物性分野)における日本人研究者の発表論文数が飛躍的に増加した反面、JPSJでの発表論文数が伸び悩み、JPSJに発表されている物性分野以外を含めた全分野の論文数をあわせてもPhysical Review Bにおける日本人著者が含まれる論文数を下回るようになりました。上に述べた科学研究費の増大に基づいた研究成果および全体の論文数の大幅なのびを考えるとJPSJの地位が大変低下していると言わざるを得ません。これは憂慮すべきことです。

このような事態が生じた背景には、グローバル化が叫ばれ、成果を海外に発信することがその重要な一環と考えられていたことがあります。特に、成果を海外の学術誌に発表することこそが海外への発信であるとする考え方が一部にあるためと思われます。さらには評価の際にそのように誘導された事もあります。海外誌に発表することが優れた成果の証しであるといった古くからの価値観が残念ながら未だにその根底に横たわっているとも考えられます。

国内で発行される学術誌を維持・発展させることには、重要な意義があります。海外誌に投稿した(または、そうせざるを得なかった)論文の掲載をおさえられ、先を越されたとの話は古くから耳にします。種々の発見に関する論文を海外誌に投稿するということは、結果を先に海外にのみ知らせることになり、極論すれば、“豊富な資金(税金)を使った挙句に外国にサービスする”という望ましくない結果になりかねません。このことを考えただけでも、国内学術誌の場所と地位を守っておくことの重要さが理解されます。また、先達の顕著な業績がちりばめられた伝統を守ることも大切です。

これまでJPSJの改革が叫ばれ、専任編集委員長の体制のもと、電子化やレフェリー制度の改善等、多くの改革がなされ、いくつかの問題がとりのぞかれつつあることは周知のとおりですが、そのような努力をさらにすすめ、今後も引き続きJPSJを支え、さらに世界に開かれた学術誌として発展させていくことは、わが国の研究者の責務とも言えるものでありましょう。

日本人研究者の物理分野での実力は、現在、国際的な視点に立っても大変大きなものになっており、重要な成果を海外誌に発表せずに日本の学術誌に出版すれば、海外からの目を十分引き寄せる情況が出来ています。キーとなる論文を普段からJPSJに織り込むことがそれほど困難ではないはずです。そのような行動を積み重ねれば、JPSJに対する評価も十分上がります。国内学術誌発展の流れを作っていく環境が整ってきたこの時期に、適切に対処することこそ、現在、我々に求められていることです。

国内誌を充実させることは、決して国粋主義に凝り固まることではありません。多額の税金を使って得た科学技術情報を初公開する際に海外に審査をゆだねるということは、大きなマイナスです。このままでは科学立国を目指す日本の戦略からは,政府の研究開発費を使った成果は国内誌に発表せよという議論さえ生まれかねません。研究発表の場を外部から、しかも予算措置を通じて制限されるという事態は決して我々が積極的に望むところではありません。

これまで外国誌が重要視されてきた背後には我が国における評価の問題があります。海外で導入されたimpact factorなるものが現在安易な評価を助長しているとよく言われます。また、そのような日本の動向が、それを作った人たちからの失笑を誘っているとの話もよく聞きます。また、昨今の情報の氾濫は、その真偽判別の暇さえ与えないものになりつつありますが、それに幻惑されない目をもって公正な判断を行うことが、評価を行う立場に立ったときの重い責任です。我が国の研究者がこれらのことを肝に銘じて、互いに公正な評価を行う土壌を整備し皆が研究資金に関する不安なしに研究に打ち込めるよう、評価に携わる際には慎重かつ責任ある対応に努めていかなければならないと考えます。また、関係機関にもそのことを求めていきたいものです。公正な評価が健全に機能しない場合には研究者に強い不安や脅えが生じ、いろいろな形で歪みが現れます。NatureやScienceに発表された数多くの捏造論文の例などは、幸いにして、その発覚で長くは影響が残らなかったものの、商業科学誌がもたらした歪みとして、さらには、評価に関する今日的な問題を象徴するものとして重視していかねばなりません。

科学技術において、アジアの中核となるべき我が国の研究者が,研究の質と方向性を、自立して決められるだけの見識を持ち、海外偏重の呪縛から解放された形での物理学研究を展開する場として、日本の貴重な学術誌であるJPSJを維持・発展させていきたいと念じています。出来るだけ広い分野の人々が優れた論文をJPSJへ発表することを切望いたします。

平成17年1月23日

物理研究者有志

網塚浩(北海道大学)、伊土政幸(北海道大学)、野村一成(北海道大学)
栗原康成(北海道東北大学)、青木晴善(東北大学)
倉本義夫(東北大学)小林典男(東北大学)高橋隆(東北大学)
野田幸男(東北大学)、長谷川正(東北大学)、福山秀敏(東北大学)
前川禎通(東北大学)、村上洋一(東北大学)、山口泰男(東北大学)
山田和芳(東北大学)、秋光純(青山学院大学)
浅井吉蔵(電気通信大学)、有光敏彦(筑波大学)、家泰弘(東京大学)
安藤恒也(東京工業大学)、池田伸一(産業技術総合研究所)
今田正俊(東京大学)、上田寛(東京大学)、打波守(明治薬科大学)
上田和夫(東京大学)、内田慎一(東京大学)、榎敏明(東京工業大学)、
小形正男(東京大学)、小野嘉之(東邦大学)
加倉井和久(日本原子力研究所)、鹿児島誠一(東京大学)
門野良典(高エネルギー加速器研究機構)、加藤礼三(理化学研究所)
北澤英明(物質・材料研究機構)、木下豊彦(東京大学)
北原和夫(国際基督教大学)、久保健(青山学院大学)
小森文夫(東京大学)、佐宗哲郎(埼玉大学)、関根智幸(上智大学)
佐藤英行(首都大学)、佐藤勝昭(東京農工大学)、末元徹(東京大学)
妹尾仁嗣(科学技術振興機構)、嶽山正二郎(東京大学)
菅原正(東京大学)、高山一(東京大学)、高橋利宏(学習院大学)
田村雅史(理化学研究所)永長直人(東京大学)、飛田和男(埼玉大学)
白川直樹(産業技術総合研究所)、針谷喜久雄(産業技術総合研究所)
田中秀数(東京工業大学)、寺崎一郎(早稲田大学)
土井正男(東京大学)、広井善二(東京大学)、舛本泰章(筑波大学)
西田信彦(東京工業大学)、西森秀稔(東京工業大学)
古川信夫(青山学院大学)、堀田知佐(青山学院大学)
水木純一郎(日本原子力研究所)、元屋清一郎(東京理科大学)
森健彦(東京工業大学)、山本浩史(理化学研究所)
柳沢孝(産業技術総合研究所)、山地邦彦(産業技術総合研究所)
吉岡大二郎(東京大学)、碇寛(静岡大学)、吉澤英樹(東京大学)
石川義和(富山大学)、伊藤正行(名古屋大学)、上羽牧夫(名古屋大)
片山信一(北陸先端科学技術大学院大学)、合田正毅(新潟大学)
小林晃人(名古屋大学)、小林迪助(新潟大学)、小林義明(名古屋大)
佐藤憲昭(名古屋大学)、佐野和博(三重大学)、武田三男(信州大学)
佐藤正俊(名古屋大学)、水貝俊治(名古屋大学)
鈴村順三(名古屋大学)、中村敏和(分子科学研究所)
高野健一(豊田工業大学)、中村新男(名古屋大学)
樋渡保秋(金沢大学)、松浦民房(豊田工業大学)、平島大(名古屋大学)
安井幸夫(名古屋大学)、和田信雄(名古屋大学)
米満賢治(分子科学研究所)、安食博和(大阪大学)、太田仁(神戸大学)
石黒武彦(同志社大学)、大貫惇睦(大阪大学)、陰山洋(京都大学)
川村光(大阪大学)、石田武和(大阪府立大学)、草部浩一(大阪大学)
川上則雄(大阪大学)、河相武利(大阪女子大学)、菊池誠(大阪大学)
大野宣人(大阪電気通信大学)、河原崎修三(大阪大学)
清水克哉(大阪大学)、笠井秀明(大阪大学)、白井光雲(大阪大学)
久保木一浩(神戸大学)、杉山清寛(大阪大学)、鈴木直(大阪大学)
大門寛(奈良先端科学技術大学院大学)、坪田誠(大阪市立大学)
那須三郎(大阪大学)、畑徹(大阪市立大学)、播磨尚朝(神戸大学)
三宅和正(大阪大学)、前川覚(京都大学)、前野悦輝(京都大学)
村田惠三(大阪市立大学)、山田耕作(京都大学)、繁岡透(山口大学)
宇田川眞行(広島大学)、浴野稔一(広島大学)、世良正文(広島大学)
高畠敏郎(広島大学)、原純一郎(山口大学)、藤田敏三(広島大学)
原田勲(岡山大学)、藤井佳子(岡山理科大学)、星野公三(広島大学)
堀純也(岡山理科大学)、井上直樹(愛媛大学)、小山晋之(徳島大学)
松村政博(高知大学)、巨海玄道(九州大学)広川照二(九州大学)
出口博之(九州工業大学)、矢ケ崎克馬(琉球大学)

この声明文は、日本の物性研究グループの代表者で構成する「物性委員会」のメンバーおよびその周辺の研究者に送り賛同を募っているものです。